e-patient white paper(PDF)から。
(本日も、本文に書いてあるもの以外の私のつぶやきは、斜体でお送りします☆)
先日、この白書全体の7つの結論が書かれているとしてあるブログをご紹介しましたが、ここに書かれていた結論とは、今日読む第2章の要旨だったようです。と言うわけで本日は、「患者が由来の・・・Patient-drivenな」医療についての話です。
まず患者はインターネットをどう利用しているかを区分したものとして、Content, Connectivity, Communitywareと3つに分けられています。
2003年にEysenbachというカナダの研究者が、がん患者がインターネットを利用することの効果について、レビューしたもの(PDFです)があるのですが、その中で彼は、患者のインターネット利用を、Content(www), Community, Communication, とわけていました。その頃に比べるとネット利用の方法が多様化したことで、より包括的な言葉が使われていますが、基本的な中身は変わりません。
このような患者によるネットの利用方法を踏まえた上で、著者らはまず、こう問いを投げかけています。「ネット利用をする患者について、専門家が知らない重大なことは何か?」と。そしてその答えが、Patient-drivenな医療にあると言うのです。
冒頭にもあげましたが、ここではこの問いに対して7つの回答を導いて説明しています。
まず専門家が知らない、e-patientに関する重要なことの一つ目としてあげられているのがこちら。
1.e-patientは医療において勝ちある資源であり、それを医療者は認識すべきであること
すでにe-patientは、患者たちにとっての医療を大きく変えていますが、医療の現場自体がそれによって変わることはまだまれです。
医療者は、患者に対して、ネットで調べましたか?とは尋ねないし、私たちはどうするべきだと思いますか?とも尋ねない。同じ患者さんがいますよということを紹介することさえ稀。多くの組織では、患者のメールアドレスは尋ねないし、患者に、自分たちの組織の評価者として意見を仰ぐということも、ほとんどしないとのこと。
そうですねえ。しないものが当たり前だと思ってましたもの。
ですが、疾患を抱えている人、特に慢性疾患患者は、疾患のために日々いろいろな意思決定を迫られている人たち。その人たちの知恵をもっと積極的に、他の患者さんのために活用することを考えるべきだとしています。
そしてネットがあれば、それが可能だということ。
具体的にここにはその方法は書いてありませんが、例えば近年、ブログやオンラインコミュニティの語りを分析する研究も盛んになってきました。文字情報で過去のものが全て蓄積されるという特徴があるネットには、体験者の知恵が埋まっています。それを、同じ立場の患者ももちろんですが、医療者も、積極的に活用すべきだと思うのです。
次に、
2. 患者がエンパワメントされるメカニズムは、私たち専門家が思う以上に巧みだということ
20世紀の多くの医療専門職は、医療者が知っている一定の知識を患者に与えることで、「患者をエンパワメント出来る」ものだと思っていました。しかし今は、患者をエンパワメントするには、患者の考え方の変化が必要で、その変化がなければ、医療者が情報をもたらしたところであまり意味がないということが分かっています。
ここでは、ネットを利用した介入をとりあげて、患者に対してトップダウン方式にターゲットを絞って、専門家由来の介入を行うことの弊害について、複数の研究が紹介されています。介入の結果、患者は知識も増加し、サポートを受けている感覚も上がったものの、自己効力感や健康関連の行動の改善には繋がらなかったというコクランのレビューもあります。
それ以外にも、ICTを利用した専門家由来の介入について、患者は行動レベルや健康アウトカムレベルでのエンパワメントに結びつかなかった例があげられています。他方、いくつか、成功だと思われたものも挙げられており、失敗例と成功例の違いについて考察してあります。
そこには、専門家が「患者にとって必要だと思う知識」を提供しているものは不成功に終わり、患者が効果的に自分の疾患を管理するための「考え」をコミュニケーションすることに焦点を当てたものが成功しているとあります。
そもそも、専門家が患者の自己管理能力を向上させるためのプログラムを作った時の仮説は、こうでした。
1、患者はその病気について、何も知らない
2、患者が知りたがっていることは、医師が患者に伝えたいことと同じである
3、医療者が患者に情報を伝えないのは、単に時間がないからだ
4、患者は医療者から学ぶべきことが非常に多くあるが、逆に医療者が患者から学ぶことはない
そしてシステムを作って検証した結果、この4つの仮説が全て間違っていたことが示されたということが説明されています。
ちょっと「目から鱗」的な発想ではないでしょうか。患者さんには、医療者が何かを教えてあげるものだと思っていた。。。こちらが学ぶことがあろうとは・・・・なんて、思った医療者の方、いませんか??
個人的な話ですが、数年前に、米国でConsumer Health Informaticsを学んできた研究者の方とお話しする機会がありました。その時私は、米国には面白い学問があるもんだ!と思ったばっかりだったので、Consumer Health Informatics(CHI)について、知りたくて知りたくて仕方なかったのですが、その際彼が、こう言ったのが印象に残っています。
「やっぱり、CHIの限界っていうものもあってね・・・」と。
その時は実はあんまり深いところまで理解できなかったのですが、もしかしたら彼は、こう言うことを言っていたのかもしれません。患者さんのために開発しているシステムの多くは、専門家由来のであって、患者さんのもの考えとは違う枠組みで作られているのだと。それゆえ、効果に限界があるのだと。。
(深読みかもしれませんが、当時は自分が絶対的に勉強不足で、建設的な質問もできなかったんですよね。今度改めて、聞いてみようと思います。)
本筋に戻ります。次に、専門家が気づくべきだと言っているのが、これです。
3.私たち専門家は、患者が有用な資源を生み出す人たちであるということを看過して来たこと
もしこれを読んでくださっている医療者の方がいたら、ちょっとこの問いを考えてみてください。
「専門家以外が書いている医療に関するウェブサイトは、信用できないと思いますか??」
この問いを頭に記憶しつつ、ここで紹介されている精神科医の話を読んでみてください。彼は様々な著者を記してきた精神科医です。その彼が最近、精神科疾患に関するウェブサイトについて選りすぐりのものとしてリストを作成しました。その名もBest of Best
余談ですがこういう時、英語っていう言語は、いいなと思います。日本語だとなかなかこういうキレのいい表題は考えつきません。
彼が優れたサイトだと選択するのに利用した基準は、内容、見栄え、利用しやすさ、全体的な印象でした。その中でも特に、内容は重視されました。
そして、いざ選択された16のサイトをみてみると、驚いたことに(私が驚いたのですが)選出されたサイトのうち、10個(62.5%)は患者が書いたもの、5つ(31.25%)は専門家が書いたもの、残りひとつは、ゼロックスPARCのアーティストグループが書いたものだというのです。
この「役立つサイト」を書いた患者は、医師が知っていることを全て知っているわけではもちろんありません。ただ、患者は、医師が知っていることをすべて知る必要があるのでしょうか?答えはもちろんNOです。そして、医師は、目の前の患者が必要としている情報がなにであるか、本当に知っているかというと、そうではないと思われるのです。
むむむ。。正直にわかには信じがたいことかもしれません。ただ、確かにそうです。多くのパンフレットで病気のことを説明されても、それが患者が本当に欲しくて有用な情報かというと、そうではない可能性が高いのです。言い方はきついですが、今までの情報提供媒体で提供されていた情報は、医療者のひとりよがりで選ばれたものが多かったのかもしれません。。
そして、著者らは、患者にとって必要で役立つ情報を提供してくれるのが、インターネットだと言います。インターネット上で様々なコンテンツを書いている患者自身が、意識しているか否かにかかわらず、彼らは、「オンラインヘルパー」として、他の患者を助けているのです。直接的にも、間接的にも。
最後に、38歳で完治不能な肺がんと診断された女性の話が紹介されています。彼女の職業はlibrarian。いわば、情報検索情報整理のプロです。
その彼女でもネット上のどの情報をどう利用するか、最初はとても迷いました。膨大な情報がありすぎて、判断がつかなかったそうです。ただ、その中で、非常に役立つサポートグループに巡り合ったことが彼女の情報利用を変えます。
オンラインサポートグループでは、自分の細かい質問にすぐ答えてくれるし、役立つサイトも教えてくれるなど、診断から初期の段階で、このサポートグループに非常に大きくサポートを受けたことが綴られています。何百という他の先輩肺がん患者に対して、手軽に質問が出来るこの環境は、ネット以外では得られなかったと言っています。
その後も、彼女がこのサイトにどの位助けられたか、具体的なアドバイスをどの位もらえたかが綴られています。
さらに彼女は、自分でもLung Cancer Onlineというサイトを立ち上げて、自分が役立ったと考えたサイトのリストあげて、新たに診断された患者さんを励ますようなコンテンツを作っているというのです。(実際に彼女が1999年に作ったものから発展しているサイトががこれです!!!)
今日はここまで。
以下は、今日の範囲に対する私の感想です。
読めば読むほど、そうだよそうだよ!思います。患者さんが必要としている情報が、医療者が伝えたいと思っているものとは違う可能性があるということを、どの位の医療者が認識しているでしょうか。
もちろん文化差はあり、検証する必要はあります。ただ、今、調査をさせていただいている中でも、まさにこれと同じ現象が多く、生の声で語られているのを聞きます。
特にネットのヘビーユーザーさんに伺っているわけではないのですが、療養中に困ったことは、なんでもWebに聴いてますという人は、日本でも当たり前にいるのです。
こんなに役立つ資源がネット上にあるのなら、医療者が手弁当でパンフレットを作ることに時間を費やしている場合じゃないです。だってその情報は、患者さんが欲している情報とは違う可能性があるのだから。。
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